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レポート
  • 2013.10.16

	現在、ザックザックの姉妹サイト「アグリッティ」では、今回ご紹介するあっぷりんご園さんのりんごを期間限定、数量限定で発売しています。
水木さんこだわりのりんごをぜひご賞味ください!


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あっぷりんご園のりんご畑。この日は5月初旬の暑い日でした。
 
青森の特産品といって何が思い浮かぶでしょうか。さまざまな海産物や農産品がある中でもおそらく真っ先に思い浮かぶのはりんごではないかと思います。
 
青森の津軽平野、中でも弘前市のあたりには、緩やかな丘の上一面にりんご畑が延々と連なり広がっています。まさにりんごの大産地、というイメージです。
 
取材に行ったのはちょうど弘前城の桜が満開の時期。りんごの生育シーズンの始まりの頃です。りんご畑ではそのつぼみはふっくらとふくらみ、今にもほころびそうな夏日でした。
 
「冬はすごく寒かったのに急に暑くなったりしてりんごの樹もついていかないよ」と笑うのは、あっぷりんご園の水木たけるさんと、栽培を手がけるお父さん。こんな年は珍しいと汗をかきながら作業をしているところにお邪魔しました。
 

	
今にもほころびそうなりんごの花のつぼみは赤みを帯びています。
 
りんごというと秋冬が旬というのはご存じかと思いますが、1年中スーパーや果物店の冷蔵ケースに並んでいることに気づく人も多いと思います。けれども、なぜこんなことが可能なのか考えたことがある人は実際のところ、あまりいないのではないかと思います。
 
実はこれは、生産者が熟すよりも早い段階で「早もぎ」をして冷蔵庫で1年中出荷できるように冷蔵保存をしているからなのです。つまり、まだ味が完全に乗りきらない状態で収穫し、追熟させていく方法です。
 
けれどもこうした生産者ばかりではありません。旬の時期の美味しいうちだけ生果の出荷をし、それ以外は出荷していない農家さんもいます。水木さんもそのひとりです。
 
 
すべてを美味しく食べきってもらうための工夫
 

	
あっぷりんご園のりんごは3キロから購入可。これは紅玉。
 
水木さんのりんごは私も何度か取り寄せをしているのですが、届くりんごは、自宅近くの果物店などで買うものとは全く違い、ジューシーで心地のいい食感。酸味と甘みのバランスがよく、品種ごとの違いがよく分かります。
 
送ってくれるのも3キロの小さな箱から。通常であれば食べきれないほどの大きな箱で送られてくることがりんごは多いので、ずっと取り寄せするのを躊躇していたのですが、この大きさであれば冷蔵庫に入れて保存しておける、という分量で送られてくるのもありがたいところです。
 
「品種によってはりんごは実が緩みやすいので、やっぱり冷蔵保存して欲しいし、家庭でそうして保存できる範囲は決まっています。
それなら管理できる量で送ったものを最後まで美味しく食べて欲しいですから。」
 
実際、密かな人気品種でもあるジョナゴールドは「こんなにぱりぱりしてたっけ?」と思うくらい歯触りがよく、近所で買うものとは全くの別物だと思えるようなものです。
 
「やっぱりどの品種もピンポイントでこの時期が美味しい、っていうのがありますから。その時期に食べてもらえた方が喜んでもらえますしね。」
 
出荷のタイミングももちろん大事なのですが、まずこのりんごが、どんな風に育てられているのか、その点を見せていただきました。
 
 
美味しいりんごが育つための秘密
 

	
畑の隅でじっくり時間をかけて作られる自家製のぼかし肥
 
案内されたのは畑の脇にある小さな小屋。その中にはビニール袋が並んでいます。その中から出てきたのは、以前他の果樹農家さんなどで“購入している”と言われたものとそっくりでした。私が「ぼかし肥」と教えてもらったものです。
 
「そう、ぼかしです。うちは剪定した枝とか、伐採した木をチッパー(枝などを粉砕する機械)にかけて細かくしてから、魚カスや炭などを入れて2年間寝かせます。そうすることで自家製のぼかし肥ができあがるんですが、これがとてもりんごにいい。花もりんごの花は白いイメージがあると思いますが、これをやるようになってから花がピンクがかって、桜に近い色になりました。花びらもきらきらしている感じ。でもこのやり方は別に新しい方法ではなくて、古い昔からある方法なんです。」
 
大概の場合、剪定した枝などは、燃やしてしまうか、産業廃棄物として扱われることが多いのですが、なぜぼかし肥を自家製するようになったのでしょうか。
 
「実は剪定した枝や樹齢を迎えて伐採した樹をチッパーにかけて袋に入れても、入りきらない分があったりするんですよ。で、もう面倒くさいからって1本の木の下にまいてしまったんです。そのあと肥料をあげたりいろいろしてたら、その樹だけがすごく成長がよくて、あ、これはいいんじゃないか? ってことになって。偶然の産物なんですよね。でもおかげでうちの畑では無駄になるものはありません。」
 
偶然の産物とはいえ、2年間という時間や手間のかかる作業を自らすることで無駄やコストを省くことが、美味しくて価格も手ごろなりんごに繋がっているということでもあるのです。
 

	
チッパーにかけた枝の上に立つ水木さんのお父さん
 
そもそも、りんごの栽培ってどんな風に行われているのか、たぶん知らない人が多いのではないかと思います。水木さんに話を聞くまでは、他の果樹のことは知っていたにしても、私もそのひとりだったと言えます。
 
春のこの時期の剪定、その後の受粉作業、病害虫の影響を防ぐための防除。さまざまな作業を経て、私たちの手元に届くりんご。実際の所はどんな感じなのかを教えてもらいました。
 
「受粉作業は去年花からとったおしべだけを乾燥させたものを品種ごとに冷蔵保管しておいて、それに石松子(せきしょうし)の粉を混ぜたものを使って受粉させていきます。品種が違うと実が落ちてしまったり変形したりと、形になりにくいので、それを人為的にしていくんです。」
 
よくテレビなどで見かける“受粉作業”というのがこれに当たるのですが、これはめしべとおしべをひとつの花の中で受粉させるということだとばかり思っていたので驚きです。
 
りんごにはいろいろな品種もあります。新しく現れる品種もあれば、淘汰されていく品種もあるわけですが、どういったことからこうして品種が増えていったのでしょうか。
 
「もともとは、人間がコントロールしやすいように作っているとは言えるんです。でも、それだけ人為的な作物だとも言えます。例えば動物で言えば純血種より雑種の方が強かったりするように、りんごも例外ではないんです。人為的に作った分、人が手をかけないと死んでしまうとも言える。そうすると、今度は自分たちも生きていけなくなる。りんごはそんな存在なんですよ。そういう意味では、自分たちが育てているのか、育てさせられているのか分からなくなるときがあります。“りんごの召使い”みたいなね。」
 
 
いいりんごの“条件”とそこに詰まった知恵
 
水木たけるさん。あっぷりんご園の若き主。
 
りんごの生育期にはいろいろと手がかかります。私たちが秋冬に、大きくて綺麗な色の、そしてなにより美味しいりんごには出会うための作業。そのためには適量の農薬も使います。それは実をたわわにならせるだけではなく、りんごの樹や実の健康を守ってあげるためでもあるのです。
 
「大きい、色や形が綺麗、美味しいというのはりんごの場合最低条件。それをクリアするためにみんな頑張っていると言えます。でも農薬代ってバカにならないですから、そういう意味でも適材適所で、減らせるところは減らす。それが作る側にも買う側にも一番良いでしょう?」
 
農薬というと“怖いもの”というイメージがあると思います。なので、“自然農”のようなものも現れています。“奇跡のりんご”に代表されるようなものです。
 
「りんごは人為的な作物でもあるから、あの方法だと生果で出荷できるものは少なくなってしまうし、病害虫にやられればどうしても味が落ちることになってしまいます。それは他の果樹と変わらないこと。たくさんの人に美味しいものを食べてもらうために、適切に農薬を使うことは必要なことだと思っています。だって、食べ物があるから人は生きていけるわけですから。それに、本当に農薬が危険で影響が大きいものだとするのなら、このあたりに年寄りはいないし、たくさんある樹齢100年を超えるようなりんごの樹なんて、今頃ないですよ。」
 
農業が進歩しているのと同様に、農薬も当然のことながら、より害の少ないものへと進化しているということもあげられます。
 
農業というのは本来人為的なもの。人が生きていくために畑を耕し、作物を植えて出来たものです。食べられなかった原種を品種改良して食べられるようにしたりと、さまざまな世代の知恵が詰まっています。その知恵を私たちはいただいているともいえるのです。
 
 
新たな“産業”への展望
 
黄色い札が下がった樹は、りんごのオーナー制度をしているもの。
 
水木さんのりんご園では、生果で出荷されないものもあります。それがとても人気のあるりんごジュースになります。濃厚でりんごの味がぎゅっと詰まったような味わいの美味しいものです。
 
「でもこのあたりの人達は、加工をすることをいやがるんです。やっぱり生果でいいものが出せてなんぼ、というところがあって、加工用にりんごを作ったりするのは恥ずかしいことと考えていることが多いんです。」
 
あんなに美味しいりんごジュースが出来ても?それに、シードル工房も青森市に出来たりしてその機運も高まっているのに? と感じる方もいるのではないでしょうか。
 
「実際、そうした話はこの1年くらいでこのあたりでも出るようになってきました。けれども元々文化的にないものを最初から創り上げることになる。そうした意味でも産業として成り立つようにしていくのは大変なことです。加工用には加工用のためのりんご作りがありますから。そのための作り込みや作り替えというのは大変な作業になっていきます。でも、そうしたことはまだこの地域では行われていないのが現状です。生果で出荷することがメインですから、作り方の方向性も変わってくるんです。生果で出せないものを他の製品に加工して、という考え方ではだめなんです。」
 
 
「美味しい」を届ける、幸せの青い鳥
 
りんごジュースの製造ライン。とてもシンプルで小さなものです。
 
こういうことは気づいた人がやるしかないんですよね、と水木さんは笑う。最後に「見たらきっと笑いますよ」と言いながらジュースを作っている現場を見せてくださいました。
 
「全部ひとりでやることを考えて作りました。機械も本来のものを揃えるとすごく高額になってしまうので、いろんなものを組み合わせて工夫したり、オークションで落札したりね(笑)。」
 
1日に詰められるジュースの量は300本程度。1本1本手で詰めて殺菌し、ラベルも1枚ずつ手で貼っています。あれだけの美味しいジュース、何か製造工程に秘密があるのかと思っていましたが、そうではなかったのです。そこにあったのは、とてもシンプルで、考えられたひとりで製造できるライン。今までいろいろな製造現場を見てきましたが、ここまですっきりしたものは初めて見たと言っても過言でないくらいです。その代わりすごく手がかけられているのが分かります。
 
「最終的に、りんごも、ジュースも、いいものを作ることが何より大事。そしてそれを一度口にしてもらえたら、次はなんとない瞬間にまたそれが食べたい、飲みたい、と思ってもらえる。販売のことはまだまだ分からないことがたくさんあります。その提案をこれからしていくことが生産現場を作っていくことにも繋がって行くんです。」
 
いいものを作り、消費者が満足すること。それは難しいことをいろいろと考えることではなくて、実のところとてもシンプルなことなのかもしれません。けれども世の中に溢れるいろいろな情報に翻弄され、なぜかそんな簡単なことに行き着かないでいることが多いのではないでしょうか。
 
私たちの“美味しくて、うれしい”の向こう側にあるものは、生産者たちの“いいものを作る努力”。それに気づいたとき、手元に届くりんごやジュース達は、よりいっそう特別なものへと変わります。

今日も、明日も、明後日も。水木さんたちは「美味しい」という、幸せの青い鳥を私たちに届けるため、絶え間ない努力を重ねていってくれることでしょう。